episode 1

使用法を確認せよ

受付に立ちもう十数年、それなりの経験も積んだ、今や古参兵に属する私。毎日執拗な攻撃にこの身をさらしながらも、運もあったんだろうナ。今日まで生き延びてきた。少しは敵の弾筋から身をかわす技術も身についたと思うゾ

かわされた弾がどこへ行くか?、、、知らん

敵の考え、考え付きそうなことを予測する、それが大事なこと。その際に自分の常識は通用しない。「まさか!」「うそー!」と驚いているようではまだまだ未熟者。それでは敵の攻撃は回避できないのだヨ

受付にたつようになって2年目の事。さすがにもう新人とは呼ばれない。医療の知識もいくらかは身につき、患者さんとの会話にも余裕がもてるようになった。馴染みの患者さんも何人か出来た。そんなある日にヤツは来た

元気なババ

病院の患者比率は「ジジ」より「ババ」が多い。また「ババ」の方が圧倒的に元気だ。ほとんどの場合ジジはババに連れられてやって来る。そして「あんた、なにモタモタしてんの!」「モウロクしてー!」などとなじられている。
彼らは家父長制の全盛期を生き長らえてきたのだ。しかし時代は変わってしまった。今やその面影はみじんもない。ババに言われるまま

母に連れられた子どもダ

Kさんもそんなジジの一人。その日もババに連れられやってきた。いつものように小言を重ねられて、、だがなんだか話がおかしいのダ

「この人、先生に貰ったくすりを嫌がって飲まない!」
「・・・」ジジ無言
「ちゃんと聞きなさい、いつまでたっても人に迷惑かけて・・・」
「飲みにくいんだ・・・」ジジ反撃

Kさんはボソボソと小声で言い訳を繰り返しすばかりだ。確かに歳を取るとモノを飲み込む力が衰え、錠剤など飲み下せなくなる場合がある。嚥下障害という。そんな場合には錠剤を砕いて出す(逆に粉薬が気管に入りやすい人もいるがその場合も手はある)

Kさんもそんな一人なんだろうと、一方的に叱られてる姿を見かねてしまった私はつい声をかけてしまった

ババに

「飲みにくかったんでしょう。うまく飲みこめない人もいますよ、つぶすなりできますから薬局で相談してみてください」
「ちがう、ちがうのこの人は、飲む姿勢が悪い!私の言うことを全然きかないのよ」

姿勢が悪い?どういうことだ?だがここであわててはいけない、予測だ、予測しろ!ババの意わんとすることを読みとるのだ

フォースを信じろ

が、ババは一方的にまくしたてている
「ちゃんと正座して飲みなさいと、あれほど言ってんのに」

正座?

なんとしてもこのジジは俺が守る。ババの言いなりから救うのダ!受付者たるもの弱者の味方であらねばならない。熱い使命感に身を駆り立てられ、、、

ババの小言はまだつづいている
「先生がくれた薬には、ちゃんと座ってと書いてある。先生の言うことをちゃんと聞かなきゃ・・・」

ん?んん?

そう言いいながら突き出されたババの手の中の薬。それは、、、

坐薬

 

ヲイ!そんなもん飲むんじゃない

この業界、坐薬を飲んだという話はあまりにも有名な話で、定番中の定番だそうだ。その事を知らなかった当時の私はまだまだ未熟者であった。
あまりにも辛辣なババの態度、同類であるジジへの憐憫、ババへの憎悪の念を膨らませつつあった私は、危うく、、、

フォースの暗黒面にとらわれたアナキン

これくらいで怒ってはイケナイ

その他にも、坐薬を判創膏で頭に貼っていた人。銀紙を剥かずにお尻に入れた猛者など、数々の逸話がある、、、

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