episode 20

親切な御近所さん

半年に1度くらいだが未収金の回収に患者宅を訪問する。近年の健康保険法の改正により患者負担は年々増加、それに伴い窓口での自己負担金を支払えない、又は支払わない患者は増えていく

病院の窓口で未収金が発生してしまうのは、窓口での支払いがなされないためだ。あたりまえだ、どうしてこういうことが起こるのか、、、

飲食店で飲み食いし金を払わずに帰ろうとすれば食い逃げ、コンビニで品物を手に金を払わずに店を出ようとすれば万引き、ホテルでは料金の支払いせずにチェックアウトはできない

金がなければそうしたサービスを受けられないのは誰でも知っている。お金がなければ利用しない、悪意ある人でもなければこうしたことは起こらない

しかし、病院ではお金を持っていないからといって入口で、お断りすることはできない。また、酔っ払いであろうが、どんなに騒ごうが、失禁していようが、救急車で搬送されて来てしまう

断れない

お金を所持しない者の診療を断れるか否か?診察前に所持金の有無を確認するわけにはいかないし、所持金が無いからといって診療を拒否するのは難しい
こうして未収が発生し、未収は溜まっていく。督促状を出し病院に呼び出すが来る人は少ない。そして未収の呼び出しには来ないのに、体の調子が悪くどうしようもないと来る

そして診療は行われる

金がないなら来るな!と言うのではない。「金を払え!」と恫喝するわけでもない。病状も合わせ、相談をちゃんと受けろと言いたい。相談に来て欲しいのだ。ケースワーカー等を交え使える制度がないか、また今後の治療計画を建てるために、まずは話に来て欲しいのだが、、、

どうしても来ない者はこちらから訪問することになる。基本的に相談に出かけるという立場だ。すんなり支払う者もあれば、そうでない者もある。出向いて見ると患者の生活状況もよくわかり、相談にものりやすい。分割で少しづつでも支払ってもらえないかと、こちらが頭を下げてみたりだ

訪問は原則複数の職員で訪れる。その日訪れたSさんの家。玄関は開きっぱなしだった

今時珍しい

「ごめんくださーい」
シーン・・・
「ごめんくださーい、Sさーん」
シーン・・・

留守、、、玄関は開いていたので、ちょいと中へ入り再度叫ぶ

「ごめんくださーい」
シーン

と、その時。外からこちらを伺う気配に振り向くと

「Sさんはお留守のようですよ、いつもこの時間はおられないよ」
と近所のオバサンのようだ
「どちらの方?」
ちょっと不振そうに訊ねてきた
「○○病院から来たんですが・・・」
「あ。あ〜、そうなの。私?私は近所の人間。私たちも心配してるんですよ。Sさんはここのところ不幸続きでね・・・」

と世話好きのおばさんの口から語られたのは、、、Sさんの旦那さんが去年亡くなったこと、今は本人は失業中のようで、また健康状態もよくなさそうで、そのおばさんも近所の者として心配してるとのことだった

「Sさんに用事って、ひょっとして集金ですか?あちこちに借金もあるようで、私たちも出来ることはしてあげたいと思ってるんですが、、、Sさんには、私からも言っておきますよ」

親切なオバサンだ

だが、患者の状態や未収の督促に来たことなど、親切そうな人とはいえ、他人に教えられることではない

「え、ええ、そうですか。Sさんには○○病院から人が来たとだけ伝えてください」

とその場を後にした。それから半年、やっぱり未収のまま。あの親切なおばさんの好意も無駄だったのか、と少々悲しい気持ちになった頃。外来にSさんが受診に来たとの報告

処置室のベッドで寝ているとのこと
かけつけてみるとそこに寝ていたのは・・・

親切なオバサン

芝居かよ

 

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