episode 28

黒いカラスの家 (LUPINさんより投稿)

依頼人は、お昼休み、受付にオレが女の子と二人でいるときにやって来た
年の頃は40半ばか50近くのオヤジだ。玄関から一番近いところにいたのは俺
一目で、尋常じゃない問題を抱えているのが、その姿から窺い知れた

そう、誰もが厄介ごとを抱えている

「うちの母親が痴呆で、今でもどこに行ってるのか分からない。夜も徘徊したりとかして・・・」

俺は、彼は次に、こう聞いてくるのだろうと決め付けていた

「こういった症状は何科に行けばいいですか?」

が、彼がそのあとに続けた話は・・・

「うちの母親は、ほかの病院でクスリをもらっているんですが・・・家の中には高濃度の農薬が置いてあって・・・それはどうしてなんでしょうか?こういうことは病院では教えてもらえないんでしょうか?」

その時、俺の近くにあった電話が鳴った。俺は電話の応対にまわることになり、残された女の子が彼の話を聞きつづけることになった。幸い電話の用件は簡単に済ませることができたが、、、彼は、まだ話し続けていた。俺が電話に出ているあいだに、彼女が聞いた話はというと・・・

「この人の家に農薬が置いてあるけど、どうして置いてあるのか分からないと言うことみたいなんですけど」

「・?・」

俺は彼に尋ねた

「それはそのお母さんが、どこから持ってきたものじゃないんですか?」

すかさず、彼は否定した

「いや違う。わからないが・・・どうして高濃度の農薬が家に置いてあるんでしょうか?危ないですよね。警察に届けた方がいいでしょうか?」

彼には、警察は、まだ頼れる存在らしい

「そうですね、ココは病院です。状況がよくわかりませんが、警察に届けた方がいいでしょう」

そう俺が言い放つと、彼はすぐに駆けだし玄関を飛び出ていった。それで終わったと、俺も彼女も、、、奥にいたボス(「お局様」)もそう思ってたのだが、、、

俺達は何も気づいちゃいなかったわけだ

午後は比較的に楽な時間が過ぎ、俺は1人で受付にいた。もう1時間もすれば、仕事が終わる。そんな時に、ヤツは再び現れた

「昼に農薬のことで問い合わせたものなんですが・・・」

警察から戻って来たのか?
また、さっきの話か?正直うんざりだった。彼の口から延々と語られたのは・・・

「うちの母親は痴呆なんですが、、、ヘンなんです。」
「私の住んでいる一帯でみんなが頭がボーっとしたり、、、」
「私の住んでる所には鳥が多いんですけど、ハトが多いんです。でも、、、
私の住んでいる周りだけカラスが多いんです」
「それは何故ですか!」

彼の話は止まらない・・・

「私が思うに、何らかの・・・地軸のコトに関係があると思うんです。この病院ではそういった調査はしないんですか?」
「この病院には、地軸のことに関して強い先生はいないんですか?」

俺は危険を省みずに言い放った

「あいにく、うちにはいませんね。そういう地軸に強い医師というのも聞いたことがありません」
「他をあたってもらえないですか」

が、彼はあきらめない。なかなかタフなヤツだ

「黒魔術とか白魔術とか関係はあるんですかね」

誰か助けて、、、と思っても、今は俺一人。奥にいる同僚も身の危険を感じたのだろう、誰も出てこない。自分が巻き込まれたら困る、、、俺だってそうだ

やっかいなことはごめん被る

それでも俺は冷静に応えていた

「そう言ことは、聞いたことありませんね」

冷静に相手をする自分がおかしく思えてきた。思わず吹き出してしまいそうで、いつしか、笑いをこらえるのに必死だった。まだ彼は話し続ける・・・

「そういう魔術に強い先生はいないんですか」

俺はもう限界らしい。体を震わせながら、、必死に笑顔をしぼりだし

「おりませんね」

最後のこのセリフを、危うく吹き出しそうになりながらも、努めて冷静に、、、3日前にゆでた固ゆで卵より冷たく、俺は言い放った

正直もう限界というところで、彼は玄関を飛び出していった


彼が出ていって、しばらくは、俺もさすがに消耗していたらしい。別のところで後輩の女の子がオロオロしているのに、しばらくは気づかなかった。どうしたんだ・・・

やっかいごとは片づけたぜ、ベイビー

いつのまにかもう一人依頼人がいたらしい。見たところ80歳ぐらいの老女が辛そうにしている。俺は彼女とその老女とのやり取りを視線におさめながら、とりあえず奥のボス(「お局さん」)に、今の一件を報告した。
俺の報告が終わっても、彼女はまだ手こずっているようだ。依頼人はかなり衰弱しているようでもあった。今日は俺の出番が多い

「車椅子持ってきてあげな」

と彼女に伝え、内科の受付まで連れていくように命じた

しばらくして、彼女が首をかしげながら戻ってきた

「あのおばあちゃんヘンなんですよ」
「なんでも5年間、何かクスリを飲まされているって、それで眠っていたんだって」
「目がさめるたびに、何かクスリを飲まされ続けたらしいんです、、、今、なんとかして出て来たって、それでとても気分が悪いんだって言うんですよ」

「え!」

その時、俺の胸中に浮かび上がってきた、この苦い思いをなんと伝えたら良いか、、、真っ黒な泡がふつふつと浮かんでは、一匹、また一匹と、やせこけた黒いカラスへと姿を変え、、、飛び立っていくのだ

老女の息子と、さっきまで話していたのは、この俺じゃないか、、、

ふと視線をそらした俺は、彼女の背後の窓の外におびただしいカラスの群が・・・

(おわり)

 

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