episode 31

病院の忘れ物 Part2 杖、杖

前回、病院の忘れ物で一番は傘、二番は杖、と書いた(episode 23)。傘はどこでも忘れ物のナンバーワンだろうが、杖が多いのは医療機関ゆえのことだろう・・・

それは足腰の不自由な人が使う補助具。年老いて足腰が弱くなって、ついには杖の世話になることになるのだが、、、
それを忘れてしまう理由を是非聞いてみたいと思っていた

あるときに、、、
「どうして杖を忘れるの」
と、ババに問いただしてみた

すると、、、
「え?・・・え?」
と、たちどころに耳が遠くなって

いっこうに教えてもらえないばかりか、やっぱり杖を忘れて帰って行こうとする・・・

杖は飾りかい?

ただし、彼女らの「杖さばき」には非常に感嘆させられる。歩行時のその動きは実にリズミカルだし、エレベーターのボタンを押すのも杖、診察室を仕切るカーテンを開けるのも杖だ。受付の順番をとるのに他人を押しのけるのも杖、、、

先日のこと。後ろからトントンと背を叩かれて振り向くと誰もいない。気のせいかと思ってたら、、、肩口に強いアタリが、杖である。ほぼ100度にも腰の曲がったババが高射砲のように杖を持ち上げ、それでトントンとたたくのだ。その流れるように走る剣先の動きは、、、まるで

マスター・ヨーダ

またある日、私が自分の薬をもらいに薬局へ行った時のことだが・・・薬局は病院の隣にある院外薬局である。薬のできるのを待っていた私の隣に、Mさんが杖をついてやってきた
Mさんは病院の常連さんでもある。ためらいもせずに、ニコニコ笑いながら、私の座っている長椅子に杖を放りあげ話しかけてきた

「あれ?病院の人や!」
「こんちは、カゼ引いてしまって・・・」

ジジババは所かまわず杖を置く。よく見ると、薬局の受付カウンターにも誰かの杖が横たわっている。どこにでも杖を投げ出し、そして忘れていく、、、
その時もその杖の持ち主が忘れていくのではと不安になり、Mさんの話に耳をかたむけながらも、杖の行方を見守っていた・・・

Mさんの薬が先に出来あがった。さてMさんはというと、杖は長椅子の上のせたまま、薬を受け取りにいく。戻ってきて長椅子に腰掛けたMさんは薬を鞄にしまいこみ、、、

「それじゃ、お先に・・・」

と、杖を持たずに帰ろうとする。すかさず「杖、忘れているよ」と声をかけ、杖を持たせたのだが・・・

半時ほど後、病院にMさんが駆け込んできた、、、

「杖、私の杖!」

との声!見ると手に杖はなく「杖がなくなった!」「私の杖を知らないか?」と、さかんに喚いている。さっき薬局で確かに持たせた杖。どこでなくしてきたのだろう・・・

「さっき薬局で会いましたよね。帰り際にも杖を忘れそうになって
お声をかけましたよね」
うんうんとうなずくMさん
「病院でなくしたって、、、あれから病院にもどってたんですか?」
首を左右に振るMさん。違うらしい

どういうことだ?謎は深まるばかり、、、こうした時の対応の仕方は一つ

一度に一つづつ・・・だ

まず薬局で薬を貰った後どこへ行ったのか問い質す
『近くのスーパー』で買い物だそうだ

じゃあ、スーパーに忘れたんじゃないかと問いただす
『スーパーで杖がないのに気づいた』そうだ

スーパーへ行くときは確かに杖があったんですねと念を押す
『間違いない』あったそうだ。薬局からスーパーへの間は約100mぐらいの距離がある。本人に言わせれば

「あーら、おっかしぃコト言われる・・・
・・・私が、そんな距離を杖なしで歩けるわけがない」

だそうだ

スーパーまで行くのに寄り道してないんですねと重ねて問いただす
『まっすぐ歩いて』行ったそうだ

被疑者には完全なアリバイが

さて賢明な皆さんには、一見完璧そうに見えるアリバイに重大なほころびがあることに、既に気づいていることと思う・・・

杖が無くてどうやってスーパーから帰ってきたのか?

スーパーで杖のないのに気づき、スーパーまでは杖をついて行ったと言い張り、スーパーと病院以外に寄ったところもない、杖がないと・・・

結局杖なしでここまで帰ってきてるわけで

???

結局、杖はスーパーにあった。あれだけ絶対にスーパーではない!と言いきっていた本人はというと・・・

病院内は当然、スーパーまでの道のりをくまなく探して歩いたこの私!には、一顧の礼も、報告もなく、、

しゅらしゅしゅ・・・

と尻に帆をかけ、、、当然の顔で帰って行った。

こんどきたら問い詰めてやる「アレ?杖あったんですか」と・・・・

きっとまた

「え?え?なんのこと??」

耳が遠いからわからない!!にちがいないが

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