episode 37

あの人は行ってしまった

うちの病院では患者さんの送迎バスを出している。用も無いのに乗って来てしまう患者さんがいることを以前に書いたが(episode 9)。強敵は、他にもたくさんいる

病院に来たとたん歩けなくなる者

「受付サン、受付サン、、車椅子乗せてよ。歩けないんだー・・・」

の声に『アンタここまでどうやって来たのサ』と突っ込む間もなく。急いで車椅子を開き、正面へ駆けつけた。うずくまるようにドアにもたれかかるババ、Tさんだ。ツヤツヤとした顔色に、豊満な肉体

いたって元気そう

今着いた送迎バスでやって来たのはわかっているのだ。しかし、さかんに膝をさすっているTさん。膝か・・・
足腰が痛くてということであれば、別に容姿がどれだけ健康そうであっても、どれだけ堅牢そうであっても、、、痛みは本人にしかわからない

体重だな

冗談ではなく、膝には自重が一番の負担になる。この体格ではいたしかたない
ともあれ処置質へ案内し看護師に手配を頼む事に・・・

「足が痛くて、痛くて、、もう歩けない。今日はいつもの注射をしてもらいに来た」

と彼女の弁。重い体を車椅子に押し込め、潰れるタイヤを唸らせ、押し進むうちに、彼女が続けて言うことには・・・

「今日は用事があって、10時まで帰らないと行けないんだから早くしてよ!」
「え?あ、ハイ。大丈夫ですよ。まだ9時前ですから、注射だけなんでしょ。骨を強くする・・・」

骨を強くしてもこの体重をどれだけ支えられるのか?疑問に重い、、、思いつつも。車椅子をギィギィ唸らせ

苦しいこともあるだろう・・・
辛いこともあるだろう・・・進め〜

一路処置室へ
そして急いで受付に戻り
本人のカルテを探し出し
診察室へもって急ごうとし・・・その時!

「アンちゃん、今日は取り消しだ」

アンちゃん?と呼び止められる。そこには先ほど車椅子のTさんが立っている。カルテを手にしつつ呆然とする私。ここまでどうやって戻ってきたのだろう?と不審に思いつつも・・・

「あれー?もう注射してもらったんですか?もういいんですか?」

Tさんは顔の前で、しきりに、手を左右に振りはらう

「違う、違う、今日の処置室。注射がヘタなのばかりだから、ヤメ」
「ヤメ!?」
「そんな、今日は注射しなくていいの?」
「大丈夫、大丈夫。さ、早く帰って畑に行かないと・・・」

駆けて抜けていくTさん。今乗ってきたばかりのバスに飛び乗り

あのぅ〜人は、行って♪行ってしまった〜♪

握り拳 by イツキー!!

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