episode 41

かざりじゃないのよ・・・

僕には骨折の経験がない。だからギプスやシーネ、三角巾等も装着したことがない。その煩わしさの経験がないのだ

幼い頃、友達の家の納屋の2階から飛び降りた時だって捻挫しただけだし、公園の螺旋すべり台をすべるのは「お子様」のすることで年長者たるものはと、鉄骨の支柱を消防士よろしく、くるくるる・・・回り降り

グキッ!ドーンー!☆!

途中で交差していた横棒に激突。地面に放り出された僕が仰向けに横たわって、真昼の空にいくつもの輝く星を見上げた時も、ああ、漫画で頭を星が回るというのは本当だなと、、、妙に感心こそすれ、しばらく後に息を吹き返した僕は懲りもせず

名誉挽回

とばかりに、再びすべり台のトップへと、、、今度は飛び降りた。両足に確かなアタリを確認し、振動が足先から頭頂部まで伝わる・・・

未来少年コナン

のあのふんばり、あの名シーンのように暫く体を震わせ、振動が頭のてっぺんより抜け去るやいなや、再びすべり台を駆け上がる、、、どこも挫くこともなく

夏の暑さがぶり返してきたこの頃に、子供の頃を思い起こし、、、あぁ、今頃は夏休みだったと、、、そんな子供の頃のことだ。すべり台にしても当時の納屋の2階にしても、それ程の高さがあったわけではなかったのかもしれない。当時の公園に行って確かめてみた

公園と言っても、神社の境内であったのだが、当時の遊具はすべて撤去されてしまっていた。公園を囲む杉の大木も幾本かは伐採されて、歯が抜けたようにまばらに立ち並ぶのみ。それでも残された木々は大きく枝を広げていて、、、
そんな木々を見上げながら、、、妙に納得している自分が思い至ったことは、暑い日差しの照りつける夏の光の中であったからこそ無事だったのだと・・・

ミーン、ミーン、、、

激しく響き渡るセミの声は、耳鳴りのように木霊し当時と変わらない。あの夏の日のままに、走り回る子らの姿は、今は一人もみあたらない。ただセミの声だけが当時のままで、自分一人、セミの声に囲まれ静寂に浸されていた

たまたま参拝に来た人に尋ねると、遊具が撤去されたのは数年前のことだとか、僕も記憶しているが、全国で起こった遊具での一連の事故の為だとか。この場所で実際に事故があったわけではないのだが、少子化で子供が少なくなっていることもあり撤去されたそうだ

笑止千万、片腹痛いわ!軟弱者めー!!

と、暑い日に我が少年時代を思い起こすうちに、いつしか真上にあった太陽も幾分角度を落とし、残された木々の枝の影が延びて、石段に佇む僕の体温が下がるにつれ・・・

はっと目が覚めた。日中堂々と幻覚を見た。朝から30度を超える気温に脳貧血を起こしていたのかもしれぬ。朝から受付に立ち、何度も同じセリフを・・・

「今日はどうされましたか?」

と繰り返し続ける僕は、いつしか正気を失っていたのだろう。やがて午前のピークも過ぎた頃、僕は一気に現実の世界に呼び戻される光景を目にする

そのババは大きな鞄とタオルを首に下げ、外の夏の光の渦から、正面玄関を潜り抜けこちらへと現れ出た。その巨体をゆすりながら、、、

ゆさゆさ

まるで巨大な熊。動物園で熊の檻に立ちその姿を見やった時に、熊に睨み付けられた瞬間をご存じか。僕は射すくめられてしまった。が、その熊が突然僕の視界から消え失せた

「あ!」

と思ったその刹那!彼女はしゃがみ込んでしまっていた。その瞬間だ、僕の医療人としての正気が働いたのは、目の前で急にしゃがみ込んでしまった患者を前に、咄嗟に飛び出そうとした。僕がそこに見たモノは・・・

彼女は大きな鞄を首から降ろし、中から取り出しその手にしているものは

ポリネックカラー

僕の声が「あ!」から「はぁ?」に変わっていたのも至極当然。大きな鞄を首にかけ病院へやって来て、病院に到着するや受付の前でポリネックを首に巻くババ!
彼女は、受付から飛び出そうとした僕の姿を視界の隅に追いやって、首に巻きつけたポリネックを、一生懸命グルグル回し、左右交互に押さえつけ、前後に揺さぶっている。そうこうするうちに、やっと

首が座った

らしい。おもむろに鞄を手に取り元のように首に下げて、こっちを、つまりはこの僕を見据えてだが、ニタリと笑う。趣味の悪い怪談映画のように

見たなー・・・

確かに見た。やがて彼女は診察券を取りだして受付にやって来た
今日は整形外科の受診だそうだ

さてポリネックである。恐る恐るババに訊ねたところ返ってきたコトバは・・・

「だって、外は暑いんだもの!」

病院の中はクーラーが効いていて寒いくらいだから、、、だそうで

マフラーかそれは!

赤いマフラー♪なび〜かせ〜て〜♪
加速スイッチ!オン!撤収ー!!

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