episode 68

女心と秋の空

秋の雨は心落ち着く。激しい暑さも消え、日に日に涼しくなっていく時。少々物悲しくもあるが・・・それくらいが丁度いいのだ。なにしろ今年の夏は暑かったのだから

柿が赤くなると医者は青くなる

とは良く言ったもの。一般には柿が体によいということで使われるが、ボクは柿が色づく頃の季節のことを云うのだと思っている・・・だって柿だよー!
この季節、カゼが流行り始めるまで、患者さんは少なくなる。今日は朝から小雨が降っていて、患者さんの出足は尚悪い。いつもなら

ジジババ

で溢れかえっている待合室も所々空席があり、待ち時間もいつもの半分くらいか、患者さんも余裕があってか苦情も少ない。やはりこんな日はいい日だ。こちらも余裕をもって応対できる

ふと見ると、一人の老婆が、外へと出て行こうとしている。片手に3本足の杖をつき、反対の手には傘をもって、小雨の中へ出て行こうとしているのだ。普段なら声をかける事もない・・・目に入る余裕もないが、今日は違う

余裕綽々

ボクは気がつくとカウンターを出ていた。ドアを開け、扉を押え。傘を受け取りかざしてあげた。外ではキャッシュコーナーの工事が行われていて、スロープは通行止めだった。介助に出て良かったと内心ホッとした。さて?この雨の中どこへ行こうと??

「バスに乗られるのですか?何号車です?」

「バスには乗らん。タクシー・・・」

さて、年寄りは気が早いものだ。まだタクシーも来ないうちから、外で待つ。中で待っていれば良いものを・・・しかし彼女らは、気を使っているのだ。自分が足が不自由であることを、早めに出ていないと、タクシーを待たせてしまうからと

「気にしなくていいですよ。タクシー来るまで中で待ちましょう」

「タクシー・・・」

「いいですよ。タクシー、来たらお教えしますから。中で待ちましょう」

しかし、ボクの声には彼女は耳を貸すふうでなく、ボクのかざす傘を逃れて、どんどん歩いていくのだ。雨の日はタクシーも混んでいて、なかなか来てはくれないもの。再度声をかけた

「雨も降っていますし、中で待ちましょう」

「・・・呼んで」

あ?ひょっとして?まだタクシー呼んでないのか?
この雨の中外に出て、オレにコレからタクシーを呼べというのか?

「今、電話してきますね。中で待ちましょう」

「・・・お金を下ろそうと」

う。そうかタクシーを呼ぶ前にお金を準備しようと、ココに出たのね。キャッシュコーナーは工事中。見てわかると思うのだが。だってキレイに分解されて姿形もないゾ

「機械はどこ・・・」

「工事中だわ」

と、言う僕のコトバは聞こえていない。ヘルメットかぶる兄ちゃん達の中へ分け入っていこうとする

「危ないから!入っちゃだめ」

工事の人から、怒られる。なんとか本人に説得し病院の中へ戻ってみると・・・

遠くで

「Tさんー、次ですよー」

と呼ぶ看護師の声・・・

まだ診察終わってなかったのネ

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