episode 80
oh、my car!
悪魔の森の奥深く
一件何の変哲もない・・・
・・・の悲鳴にも似た
叫び声が聞こえる・・・
あれー!あれ、あれー!
ないわ、ないのよー!
だれ!だれなの・・・
待合室に、突如響き渡る〜老女の
奇声
患者さんの姿も少なくなった、外来も終わろうかというお昼近くのこと。不思議とトラブルもなく、今日はめずらしく無事に済みそうな・・・と思っていた矢先のこと
どーうしてー
わたーしぃーのー
くーるまーがぁーぁー
無ぁいのぉ〜〜〜〜〜!♪
オマエはオペラ歌手か
家から牽いて来た。正確には押して来た・・・しかし病院ではよく、自称『足腰の不自由』な方々が、山ほど買い物ビニール袋を載せた車を、『牽きずる』姿が目撃されもする・・・
シルバーカー
手押し車です。が無くなったと大騒ぎする○○さん。なんでも朝自宅から、えっちらこっちら、額に汗して家から牽いて来た・・・いや押して来たそうで、病院に着くといつものように、正面玄関に並べて
停めた
「私の車」が忽然と姿を消したという・・・困った困った、という泣きそうな声だった。最初は車がないと
歩くのも難儀する
どうやって帰ればいいの、「私の車」が、「私の車」が、と途方に暮れるようで、こちらとしても彼女の不運に同情するしかなく・・・オロオロと辺りを捜してみても見つからず・・・ところでその車を停めたトコロって・・・
そこって病院のシルバーカー(貸し出用)が並べられてる所だ。常時20台を超える数のシルバーカーが正面玄関には並んでいるのだから、そんなところに並べられれば、誰が使ったとしても仕方がない
そもそも、この「車」はどれも似通っている。デザインも色柄も皆同一色で、木の葉を隠すなら森に・・・
ババを隠すなら病院に
と言う具合に、誰も気付かずに牽いて・・・いや押して行くだ!どんなに大きく○○病院と書いてあろうが、誰も気にすることなく牽いていく・・・いや押して行く・・・やっぱり牽いてる。近くのスーパーへ買い物に行くのに
牽いて
行く。なかには買い物に行ったスーパーに、置いてきてしまうヤツまでいるんだからしょうがない
「○○病院さん?お宅の車が○台放置されてるよ」
とスーパーから取りに来てくれという電話もある。ま、その逆もあってスーパーの買い物車がうちの駐車場に放置されてることもあるのだがね
ほどなくして・・・
間違えて持って行った患者さんが
外から
入ってきた。いや、間違えてはいないナ、だって病院のシルバーカーと一緒に並んでたんだものね・・・アナタは間違ってない
アンター!
どーういぅーう
つもりぃーなのー!!
だから、オペラはヤメロ
「勝手に人の車を運転するなんて!」「
非常識にもホドがあるわぁー」と持ち主は、怒り心頭でまくし立てている。
さっき泣いた子がもう怒ってる
その、あまりの剣幕に僕も、そして同僚も、ちょっとビビリ入りました。患者さん同士のトラブルとは言え、やはり気持ちよく帰っていただきたい。なにしろそのシルバーカーを牽いていった・・・いや押していったAさんはちっとも悪くないのだしね
そこで、僕は当の持ち主に
「○○さん、ちゃんと名前書いておかなきゃダメだよ」
と、子供を諭すように・・・老人にこの「手法」は間違っている。却って火に油を注ぐことになる。案の定
*`д´)ノ くわっ!!
と、一瞬の刹那!老婆の目が光った
「ちゃんと、こんなにでっかく書いてあるわよー」
彼女の手が素早く車へとのび・・・車の、車の、車の、ボンネットに当たる部分(?)
フタをパカっと開く
その裏側にでっかく『なまえ』があった
わかるかい!そんなもん!!
ところで、その車の中に、目一杯詰まってる買い物袋はアンタのなのかぁ!そんなもん、いつ買って来てたんだ。それにコレ相当重いぞ、よくその足でここまで牽いてきたもんだ・・・そう言えば間違えてったアンタもだ!!コレ牽いてドコ行って来たんだ!
ところで、持ち主のアンタは今まで
シルバーカーなしで
ドコほっつき歩いてたんだ?
これって『歩行補助具』であるコトを誰もマジメに考えてないじゃん
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